ボトルネック
![]() | ボトルネック (新潮文庫) (2009/09/29) 米澤 穂信 商品詳細を見る |
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した……はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。
世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。(裏表紙の紹介文より)
痛々しい話だった。思春期特有の陰鬱な妄想が、現実として目の前に立ちはだかる。さらにそれを裏付けるエピソードが、次々と展開されていく。これを絶望的と言わずしてなんと言う。冒頭の両親のエピソードあたりで方向性は見えていたのだが、ここまで容赦なく書ききるなんて。米澤穂信さん、恐るべし。
今作を読んでいて、文章と物語構成の技術の高さを随所に感じた。
とにかく読みやすい。購入してからしばらく積読状態だったのだが、読み始めてからはあっという間だった。会話のテンポのよさと、展開の緩急のつけ方が巧い。どんどん引き込まれていく。
また、ミステリの「におい」みたいなものが感じられなかったことも大きい。「これが謎ですよ」「今から謎をときますよ」みたいな流れ、あるいは推理という特殊な思考がかもし出す、独特の雰囲気。作品によっては、そのにおいが鼻について、自然に物語世界に入っていけなかったりする。今作は米澤先生の作品の中でも格段にそのにおいが抑えられ、ミステリ的な要素が話の筋にうまく溶け込んでいる。この点は、これまで「日常の謎」ミステリを書いてきた著者ならではの手腕と言えるかもしれない。
あとは伏線の張り方と、その回収の仕方。序章の六ページに盛り込まれた伏線の多いこと。この密度は凄い。文章に無駄がない、これぞプロの仕事である。その後も、一つのエピソードに複数の伏線を潜ませ、何度かに分けて回収するなど、呼んでいて感嘆しきりだった。
米澤穂信さんは、すごい。
金沢を舞台としているんだけれど、「弁当忘れても傘忘れるな」というローカルの諺とか、金沢在住の方が運営されているテキストサイトで読んだ覚えがあって、ああって思った。僕は北陸で暮らしたことがないけれど、金沢の人が読むとまた違った感慨みたいなものが沸くのではないかと。どんよりと立ち込める北陸特有の分厚い雲が、暗澹たる主人公の行く末とリンクしたりとか。
主人公がラストでどちらを選択したのかは、読者の想像に委ねられている。今の僕は、後者として読まざるを得ない。前者の選択肢は、すでに塗り潰されている。
* 他の米澤さん作品の、拙い感想
古典部シリーズ:
氷菓 愚者のエンドロール クドリャフカの順番
小市民シリーズ:
春季限定いちごタルト事件 夏季限定トロピカルパフェ事件 秋期限定栗きんとん事件
そのほか:
犬はどこだ
新釈 走れメロス 他四篇
![]() | 新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1) (2009/10/15) 森見 登美彦 商品詳細を見る |
あの名作が京都によみがえる!? ばかばかしくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は?
誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。(裏表紙の紹介文より抜粋)
『山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』の五作品をリメイク。短編集とあるが、同じ登場人物が何度も出てきて、一つの長編ともとれるつくりになっている。ダメな大学生たちばかりを集めて、各話ごとに違う人物にスポットライトを当てているような感じ。
全体的に見ると、森見登美彦さんの今までの路線をぎゅっと一冊にまとめたような印象がある。『山月記』の孤独な道を突き進んで後悔し、けれどもう後の祭り、というのは『太陽の塔』っぽい。『走れメロス』のスピードと、ハチャメチャでお祭な感覚は『夜は短し歩けよ乙女』の大学祭。『桜の森の満開の下』の薄ら寒い風景と、『百物語』の背筋がぞっとくるような存在は『きつねのはなし』を思い出させる。
「森見登美彦さんってどんな作家?」って人に薦めたい本。もちろん、すでに読んだことがあるファンの方も十二分に楽しめる。というわけでオススメです。
『百物語』を読んでいる途中、「大学祭でゲリラ演劇を指揮した〜」って箇所で思わず『夜は短し歩けよ乙女』を読み直してしまった。そしたらちゃっかり詭弁論部の芹名が出てて、桃色ブリーフをはかされてたので驚いた。どれだけリンクしているんだろう。
来世であいましょう
![]() | 来世であいましょう 1 (バーズコミックス) (2009/10/24) 小路 啓之 商品詳細を見る |
小路啓之さん新刊、待ってました!
ボクは精神的引きこもりの近松ナウ。
特技は<時間差攻撃型衝動行動>。平たく言うと“気が弱くてその場では怒れず、数年経って妄想が極限に達したときにキレて破壊行動する”というクセだ。
そんなボクが絶対の自信を持つのは『絶対に騙されない』こと。だってボクが女だったらボクみたいな男は絶対好きにならないからな!
なのに、美少女転校生・かぴあが漫画みたいな思わせぶりな態度を取るんだけど……!?(裏表紙の紹介文より)
紹介文ですでに小路さん節全開。
相変わらず癖のある登場人物たちによる、ネタ満載で、あっけらかんとえげつないエロ含む、基本的に正統派なラブコメ。
主人公は<時間差攻撃型衝動行動>という特技(?)を持つ地味な男、近松ナウ。来世が見える美少女転校生、白良浜かぴあ。ナウの幼馴染で女の子みたいな格好した男の子、牧野キノ。ほかにも出てくる人たちみんながどこかずれているのだが、その中でも最もキャラが立っているのは、やはり主人公のナウだろう。地味なのにむりやり主人公にさせられて悪目立ちしちゃってる感じ。ひねくれ具合と痛々しさで右に出るものなし。どちらかというと弱くてダメな部類に入る特技も面白い。読んでいて「ああ、思い出して叫びたくなるときあるよね」って思った。家庭環境も凄い。「牛の間」でやってることが本当にカオスで好きだ。
(今ふと気づいたけど、小路さんの作品の主人公はみんな、弱くて妙な特技しか持ってないな……。)
ネタも満載で嬉しい。「店員さん大変だ逆にノックアウトされてるぞ!!」は名言だ。吹いた。あとは「火の鳥の結末をボクに聞いてどうする?」「ジキルとハイジ」「ウルトラマンなら3分間クッキングは食べられないんじゃ……」とかが好き。キダ・タローの「とれとれピチピチ」がわからなくて、検索してしまった。
絵は、『かげふみさん』のときより線が細くなったような気がする。ほっぺたが丸くてぷにぷになのはそのままだ。(牧野キノが可愛くて困る。)それにしても、表紙がどんどん萌えに走っていくなあ。
とにかく読んでいて楽しかった。続きに期待。
今までの小路啓之さんの作品の感想:
『イハーブの生活』 『かげふみさん』 作品集1『小さな世界』 作品集2『Lovely』
みかこさん
![]() | みかこさん 1巻 (モーニングKCDX) (2009/10/23) 今日 マチ子 商品詳細を見る |
『センネン画報』の今日マチ子さんのWeb連載マンガ『みかこさん』が、ついに単行本に。しかも嬉しいオールカラー。これは買うしかない、というわけで発売日に買ってきた。
自分の進路を決めかねている高校生(三年生?)のみかこさん。彼女のクラスメートで、絵の道を志している緑川。ナオコさんとのこと、進路について、好きな音楽、それぞれから見た相手のこと、などなど、二人の視点でそれぞれの日々を描いた漫画だ。
『センネン画報』でも思ったことだけど、絵の具や色鉛筆、リボン、風船、「マープルチョコ」など、各話で出てくる小物の使い方が素晴らしい。その色や、それに対する登場人物の思い入れ、あるいはそのもののもつ意味(暗喩的な)によって、登場人物たちの心の機微が表現されている。思春期特有の、自意識過剰さや、漠とした不安感、もやもやとした感情などが、ときにふわりと心地よく、ときにちくりと痛みを伴って感じられる。
巻末に収録されているおまけマンガの「ナオコサン」も好きだ。台詞のない四コマで、『みかこさん』のいくつかの話が、可愛く楽しく描かれている。
単行本化してもWeb連載は続けてくださるとのこと。
また、Web連載のページはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下に配信されており、条件を満たせば転載が許されている。というわけで、勝手ながらお気に入りのページをいくつか紹介させて頂きます。
[みかこさん]の続きを読む
屍鬼6巻/不思議な少年6巻・7巻
![]() | 屍鬼 6 (ジャンプコミックス) (2009/10/02) 藤崎 竜 小野 不由美 商品詳細を見る |
辰巳の表紙やだなあ。
『ある医師による記録』はヤバイ。これまでの中で一番怖くて、震えが止まらなかった。なんともありきたりな言葉だけど、やっぱり一番怖いのは人間、ということなんだろうか。
「屍鬼」は二つの意味でグレーな存在である。一つは「生と死」において、もう一つは「人間か否か」において。彼らの心臓は止まっているが、彼らは歩き回り、会話する。彼らは人を襲い、その血液を吸うが、そうなる以前の記憶や精神=人間性も持っている。この、グレーであることが、この物語では非常に重要なポイントになっている。
生きているでも死んでいるでもないグレーな存在には、法が適用されない。尾崎は「屍鬼が死ぬのは酷くて、人間が死ぬのは酷くないのか。村が死に絶えてもいいのか」という信念に基づいて臨床実験を行う。しかし、屍鬼には精神が宿っている。尾崎の行為の非人道性については、彼自身も理解しているのだろう(「すまない」「痛みはあるのか……」)。だからこそ、自身の信念に基づきながらも、彼は半ば狂気に侵されていく。
『ある医師による記録』には、タブーとも思える一連の行為と狂気に侵される尾崎の心理が、「屍鬼」というグレーな存在を使って生々しく描かれている。この類の怖さ、ヤバさを感じたのは『多重人格探偵サイコ』以来だ。
それにしても、吸血という非人道的な行いをしながら法に問われない屍鬼に対し、屍鬼を殺すために行う臨床実験の人道性が本人や周囲の人間(や読者)によって問われてしまうとは、なんという矛盾だろうか。
(蛇足だけど、もし屍鬼が死んでいるとされた場合、尾崎の行為は死体損壊に当たるのでは……? どちらにしろ、正当防衛が適用されない限り、彼は悪者になってしまうのか。)
夏野の父親があちらの世界に行ってしまわれた。夏野の今後やいかに。
(この状況で彼が例の飢餓感に耐え、桐敷に反旗を翻すというのなら、それは素晴らしいブラックヒーローものになりそうだけど。夏野と尾崎がタッグを組んで桐敷に対抗し、全て終わった後に夏野が言うわけだ、「いや、まだだ、まだ俺が残っている」みたいな……。うーん、ありきたりだなそれも。)
![]() | ![]() | 不思議な少年 6,7 モーニングKC 山下 和美 |
六巻は、ロボットの少年の話と田舎から上京する二人の話がよかった。
七巻は、とにかく郵便配達員のおじさんの話が印象的だった。彼の願いのシーンで泣いた。
八巻は、買うか悩み中。
シドニアの騎士
![]() | シドニアの騎士 1 (アフタヌーンKC) (2009/09/23) 弐瓶 勉 商品詳細を見る |
まさかのロボットもの。
人類の存亡を懸け、谷風長道(たにかぜ・ながて)は白銀の装甲・継衛(ツグモリ)を駆る!
太陽系が奇居子(ガウナ)に破壊されて千年。人類の繁殖と生産を維持しながら宇宙を旅する、巨大なる幡種船・シドニア。シドニアの最下層で育った少年・谷風長道は、衛人(モリト)訓練生となり、旧型だが歴史的名機である継衛への搭乗を許される。
長道の命を賭したたたかいが今ここに幕を開ける!(裏表紙の紹介文より)
とにかく読みながら「ちょwwwwカオスwwwwww」と思わずにはいられないシーンの連続。ネタバレになっちゃうけど米泥棒とか寮母さんとか光合成とかカテーテルとか。ネタ的要素が多い上に、今回は萌え通り越してエロ路線ですか、という感じ。描いてて楽しいだろうなあ。
噂通り画面が白い。『バイオメガ』6巻の、描線の細さからくる白さとは異なり、どちらかと言えば『ブラム学園』に近く、線が太めで全体的につるっとした可愛らしい描画で統一されている。(弐瓶作品で主人公の男が可愛いと思ったの、初めてだ。)
ただ、この可愛らしい描かれ方が逆に怖い。閉鎖的な世界の中、無菌状態で作られた人形のような登場人物たち。彼らを見ていると「整っていることそれ自体の歪み」を強く意識させられる。『BLAME!』の埃っぽくて金属臭がしそうな空気とも、『バイオメガ』の有機的で肉肉しい空気とも異なる、プラスチックのような、臭いのない空気。そんなものを吸ったような気がした。
紹介文にもある「奇居子」で『アバラ』とリンクしているわけだが、『アバラ』から千年も経ってるともうあまり関係なさそう。『BLAME!』と『バイオメガ』の「東亜重工」繋がりも特にリンクはしてなかったし、弐瓶さんはそういうところを繋げようとはしないのかもしれない。そういえば『ブラム学園! アンドソーオン』にも「奇居子」繋がりの話があったっけ。読んだ印象では、『アバラ』以後『シドニア』以前という感じだろうか。
『BLAME!』ほどの衝撃はないけれど、次の巻が楽しみだ。物語そのものがというよりは、これから弐瓶さんがどこへ向かおうとしているのか、という点で、だけど。
蛇足だけど、「イザナ可愛いよイザナ」って言ったら、アンテナくんに「両生類だけどな。っていうか、ニューカマー(©イワンコフ)だよな」って言われた。言い得て妙だけど、ニューカマーはやめれ。
きつねのはなし/陽気なギャング
![]() | きつねのはなし (新潮文庫) (2009/06/27) 森見 登美彦 商品詳細を見る |
『きつねのはなし』『果実の中の龍』『魔』『水神』の四つの作品から成る。それぞれの話に「芳蓮堂」という骨董屋と「けもの」の存在が共通しているが、一冊が一つの大きな作品としてまとまっているわけではなく、短編集のような感じ。
どれも、背筋がぞっとするような、静かな怖さをたたえた話だった。『太陽の塔』や『四畳半神話体系』、『夜は短し歩けよ乙女』などの、笑いを誘う話とのギャップを感じ、ううむやっぱり凄いな、と唸ってしまった。妄想と現実を混ぜ合わせる手法は、今回も健在といったところ。先に挙げた三作品はその手法に光を当てたもので(光の明度は違えど)、この『きつね』はその手法を闇に潜ませたもの、という感じだ。
最後に読んだということもあり、今は『水神』の印象が強く残っている。
![]() | 陽気なギャングの 日常と襲撃 (祥伝社文庫) (2009/08/30) 伊坂 幸太郎 商品詳細を見る |
なんだか、はっちゃけたテンションの伊坂作品を読んだのは久し振りな気がする。しみじみとする『終末のフール』と、なんだか不穏な雰囲気漂う『魔王』を読んだあとだからかな。
「日常と襲撃」というタイトルの通り、それぞれの日常での出来事がまず語られ、彼らの仕事である銀行強盗、その現場で見かけた女性が他の事件とリンクして、という流れになっている。あとはオマケで「日頃、悪いことばっかりしてるから、時々、どうでもいい人助けをしたくなるんだよね」という話。伏線使いとして名高い(?)伊坂さんだが、今回もまた然り。「日常」の四話の中に、「襲撃」以後の本編への伏線が散りばめられている。
前作『地球を回す』と同様、とにかく登場人物たちの会話が楽しい。今回は響野と久遠のかけ合いが特に多かった気がする。成瀬の冷静なツッコミと違って、より一層デコボコしていた。久遠がときどきずれた発言したり、妙なこだわりがあったりして、響野が逆に引くところとか。とにかくキャラが立っている。雪子さんかっこいい。
「ボブ・ディランを泣けるくらい上手に歌う甥」のエピソードは『アヒルと鴨のコインロッカー』だよなあ。こんなところでリンクしてたっけ。
成瀬と響野の会話で、
「いつも田中の情報や道具に頼っていると、またか、と思われるかもしれない」
「誰に、思われるんだ!」
というのには笑った。
最近読んだ本
![]() | ポーの話 (新潮文庫) (2008/09/30) いしい しんじ 商品詳細を見る |
川と海を軸に、広く深い世界を描いたファンタジー。『ゲド戦記』を読んだときの感覚に近かった。ゆっくりとした語り口が心地よく、抵抗なく世界に入っていける。とにかく読んでいる最中、読んだあと、染みるような温かさが自分の内に満ちていた。他の作品も漁りたい。
![]() | 向日葵の咲かない夏 (新潮文庫) (2008/07/29) 道尾 秀介 商品詳細を見る |
「このミステリーがすごい!2009」作者別一位、という帯に惹かれて。僕はトリックを看破することができないので、作者の思惑通り(?)あちこち引っ張り回された。終盤、頭を殴られるみたいな衝撃と、やりきれない痛々しさが強烈だった。これは確かに、凄い。
![]() | 少女には向かない職業 (創元推理文庫) (2007/12) 桜庭 一樹 商品詳細を見る |
白状すると、僕の趣味ど真ん中な作品だった。出勤途中と帰宅途中の良い清涼剤。地下鉄の中バスの中でニヤニヤしてたのは僕です怪しくてごめんなさい。裏表紙の紹介文を読んだときから予想はしていたんだけど、これほどまでとは。乙一さんの『GOTH』以来の嬉しさだった。
……と書いて冷静に見直してみると、中二なんだよね……。主人公からしてリアル中二だし(意図的?)。
![]() | 終末のフール (集英社文庫) (2009/06/26) 伊坂幸太郎 商品詳細を見る |
地球滅亡を三年後に控え、小康状態にある世界を舞台に、八人の登場人物がそれぞれの物語を紡ぐ。八つの連作短編で、相変わらず伊坂さんらしいというか、それぞれの話の中で登場人物がリンクしている。
『冬眠のガール』が文句なしトップで(女の子視点の恋愛ものに弱い今日この頃)、あとは『演劇のオール』のドタバタが好きかな。伊坂さんの話はとかく登場人物が魅力的。そして一つ一つの小さなエピソードが光っている。
最近読んだマンガについての簡単な感想
![]() | 屍鬼 5 (ジャンプコミックス) (2009/07/03) 藤崎 竜 小野 不由美 商品詳細を見る |
1・2巻の感想
祈祷師の格好をしたばーちゃんといい、号泣するその娘といい……うーん、藤崎さんは一体どこにいってしまうのか……。
この巻の見所は、静信の背後の沙子も捨てがたいが、なんといっても「ものすごくおなかが空くのよ」のシーンだろう。思わず解体屋3巻とリンクして、「がつがつしないのっ!」とか言ってニヤニヤしてしまった。
4巻から続く、滂沱の涙を流しながら人を襲うという描写が凄い。唾棄すべき本能に抗えないことから生じる苦悩が、生々しく描かれている。その苦悩の前では、夏野の前向きな台詞があまりにも軽く感じられてしまう。
![]() | おやすみプンプン 5 (ヤングサンデーコミックス) (2009/06/30) 浅野 いにお 商品詳細を見る |
雄一おじさんの彼女の翠ちゃんが可愛すぎる。可愛すぎるがゆえに、痛すぎる。そしてどろどろ。最近は読後感が重すぎて、読んだあとは「次買うのやめようかな……」と真剣に悩むんだけど、実際出てるの見ると買っちゃう。このどろどろをどうやって収拾つけるのかが気になっているからかもしれない。
ワァ、と笑って抜けてから、思いっきり「ガッ デム!!」ってなる心の動きはもう見事としか言いようがない。思わず読んでいるこっちも「ガッ デム!!」って叫ぶ。
ここまで書いて気づいたけど、そういえば『プンプン』の感想今まで書いてなかった。いきなり5巻だけってどうなんだ……紹介するにも不親切極まりない。今度まとめて書こうかな。できれば完結してからがいいんだけど、いつになることやら。
『ソラニン』の映画化は、まだ情報が少ないので何ともいえないが、多分見ない。原作でのめりこんだ作品の映画化であまりいい思い出がないので。
PLUTO
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![]() | ![]() | ![]() | ![]() | PLUTO (ビッグコミックス・2004/9/30 - 2009/06/30) 浦沢 直樹 原作:手塚治虫 |
完結していたので、まとめて貼り付けてしまいました。圧巻。携帯の読者様、重くしてすみません。
原作は、手塚治虫『鉄腕アトム』の「地上最大のロボット」という話。そこで登場するユーロポールのロボット刑事ゲジヒトをメインに据えて、「命とは何か、心とは何か」というテーマが描かれている。
全体的に悲しく、寂しい話だ。次々と倒されていく登場人物たち、彼らにまつわるエピソード。戦争のもたらした傷跡、膨大な悲しみと強い憎しみ、罪と罰。プルートゥの存在。どのエピソードも悲しみをたたえていて、読み進めるにつれてこぼれていく。最後には、失われたことからくる寂しさと、「憎悪からは何も生まれない」という言葉だけが残る。
最終巻を読んでから1巻から読み返してみると、相変わらず何本もの伏線が張られていること、最終巻でそれらがきちんと回収されていることに気づいた。そのせいか、最終巻では「まとめ」的とでも言うのか、説明っぽい会話が多かったように思う。あと、展開も少し急だったように感じた。浦沢さんのマンガの特長に、丁寧な心理描写があると思うのだが、最終巻では少しそれが足りなかったような気がする。
ノース2号とゲジヒト、エプシロンのエピソードが好きだ。特にゲジヒトのエピソードについては、メインとされているだけあり、涙なしには読めない。記憶を取り戻した後のゲジヒトの、どこか遠くを見つめるような表情が忘れられない。
好きな登場人物は上の三人とブラウ1589。ブラウ1589は存在感といい立ち位置といい、素晴らしいキャラだと思う。
一度読んだのに思い出せなかったので、原作を再読した。パワーインフレが起こっているところとか、阿蘇山で決闘とか、「なんだかなあ」と思ってしまう点はあるけれど、最終的には「ロボット(ひいては人間)はなぜ争うのか」という深いテーマに行き着く。浦沢さんが真摯に原作と向き合い、原作を傷つけることなく数々のエピソードを加え、自分の作品として完成させていることに気づき、素直にすごいと思った。
あと原作の天馬博士の台詞で、「わしは世捨て人だから、ここに長居するわけにはいかないんだよ」というのが面白かった。自分で世捨て人って言っちゃうんだ。しかも結構明るく。
センネン画報
![]() | センネン画報 (2008/05/15) 今日マチ子 商品詳細を見る |
普段は決してしない、ブラウザを画面いっぱいに広げて、クラムボンの歌を聞きながら、台詞のないマンガを読む。水の中で漂うような光景を眺める。そうやって僕の中に幽閉された、もろく崩れやすい部分に水をやる。この人の青色を呼吸したい。喉が潤っていく。
以前の日記の冒頭より。今なら相対性理論かな。
今日マチ子さんのブログ『センネン画報』に掲載された、ほぼ一日一ページのマンガを集めたもの。描き下ろし『海から36km』収録。
森見登美彦さんの「こんなにどきどきするのはなにゆえか!」という帯と、淡い色使いの表紙に惹かれ、ネットで検索したら公式ブログがあるじゃないですか。開いてみたらなんという素敵世界。ものの二秒で惚れました。まさに、「こんなにどきどきするのはなにゆえか!」
水のりや毛皮の手触り、ハンドクリームや花のにおい、握った手の温度。吹き抜ける風、水の中で吐く気泡、ぼんやり光る蛍と外灯。彼の表情、彼女のしぐさ、二人の距離。可愛らしさに頬が緩んだり、面白くてくすりと笑ったり、シチュエーションにどきりとしたり。
想像をかき立てられ、思い巡らせているときが、とても幸せに感じられる。
どのページを開いてもふわりと浮かぶような心地がするのは、美しい感性でもって淡く彩られた絵から抽出される、ひとしずくの感情や感覚が、あまりにも澄んでいるからだろうか。そのひとしずくは、自分の奥深くまで落ちていって、水面に小さな波を立てる。波紋はあっという間に水面いっぱいに広がり、反響して大きくなっていく。大きな感動が、そっと心を宙に浮かせてくれる。
モーニング公式サイトで連載している『みかこさん』は10月に単行本が出るそうな。作中、「リロン」という名前で相対性理論が描かれている(ほかにも、「せんねんもんだい」とか「田田田」とか)。こちらも楽しみ。
それにしても僕のアンテナは一年遅れなのか……。あまりに鈍すぎる。
ウルトラバロック・デプログラマー3
![]() | ウルトラバロック・デプログラマー 3 (2009/03/25) いとう せいこう 浅田 寅ヲ 商品詳細を見る |
脳をクラッシュされた解体屋(デプログラマー)は精神科医志望の少年・ソラチャイと女性医師の知香の協力のもと、完全復活するために大きな賭けにでる。それは、解体の素人であるソラチャイに心理手術を頼むという、一見暴挙とも思える決断であった!!
果たして、完全復活への道は開けるのか?(裏表紙の紹介文より)
1の感想 2の感想
続きものの感想を書くときはどうしてもネタバレになってしまう。また、どうしても読んだ人しか分からないような閉ざされた文章を書いてしまう(これは続き物に限った話ではないが)。どうにかできないものか……と書いて前の感想読んだら、同じこと書いてた。成長してないな。
[ウルトラバロック・デプログラマー3]の続きを読む
Lovely
![]() | 小路啓之作品集 2 (2008/06/24) 小路 啓之 商品詳細を見る |
2の表紙絵が好き。小路さんの作品に惹かれたきっかけでもある。収録話は『Lovely』『宇宙企画』『カゲ切り男をめぐる冒険』『夢みるうさぎ』『殺しのライセンス』『落殺者たちのバラッド』の六つ。
『Lovely』
通学途中の電車の中で一緒になるアヤノ少年に恋をした少女リサ。告白しようとするも、なかなか声をかけることができない。小さな恋の行方やいかに、という話。
秀逸。これが読めただけでも僕は満足だ。ネタと面白い台詞の応酬が楽しい前半、衝撃的で不条理であまりにも切ない後半。小路さんの良さが凝縮し、結晶化している。個人的に、『イハーブの生活』『かげふみさん』とこの『Lovely』が今のところ小路啓之作品TOP3だと思っている。この話ばかりを何度も読み返してしまう。
『宇宙企画』
「無重力の中でSEXすると妊娠しないという噂、本当らしいですよ」という話。
あー。この場合は多分妊娠しないよね。遺伝子とかの問題で……。
『カゲ切り男をめぐる冒険』
カゲ切り男に影を切られると感情のない人形になってしまう。カゲ切り男の正体とは? 影を切られるとはどういうことなのか? という話。
『小さな世界』『イレイサー・ヘッド』あたりと同じ路線かな。絵のタッチと、ややファンタジーなところは『イハーブ』を髣髴とさせる。小路作品は、病院とプラネタリウムが多い気がするなあ。
『夢みるうさぎ』
人参ばかりのベジタリアン・ライフに嫌気がさしたうさぎのポピーは、肉を食うために弟のパピーと旅に出る、という話。
夢特有の、シュールでちょっと怖い雰囲気が出てて好き。人じゃないキャラが動き回るのも可愛いので、また描いて欲しい。
『殺しのライセンス』
殺し屋ザチャーミンの今回のマトは、幼稚園の保母さんだった。仕事開始直後、あろうことか彼女はザチャーミンに向かって発砲する。殺し屋vs保母さんという異色バトルが今始まる、という話。
デビュー作。あらすじ書いてみると、改めてすごい話だなあ……。話よりも何よりも、絵に驚きだった。
『落殺者たちのバラッド』
描き下ろし。好きです。「うわっ」の後のひとコマがツボ。あの仕草は反則だ!
小さな世界
![]() | 小路啓之作品集 1 (2007/09/22) 小路 啓之 商品詳細を見る |
ようやく探し当てた1は結構黒め。収録話は『小さな世界』『7.5Hz』『kurutare』『イレイサー・ヘッド』『運命の人』『十代の潜水生活』の六つ。
『小さな世界』
主人公・みかさにしか見えない小人。彼の言うとおりにしていれば万事OK、だがある日その小人が姿を消してしまい……という話。
こういう路線も嫌いじゃないし、最後の方で問われるどん詰まりな感覚も悪くない。でもオチが宙ぶらりんな感じだった。
『7.5Hz』
スプラッタが好きなもので。
ある日突然、人々は他人に近づくだけでイライラし、殺し合うようになってしまった。彼らはお互いに殺し合わないよう、ひきこもって生き始める、という話。
「トイレの便座を上げっぱなしにしてたから」とか、殺す理由が極端なほどに些細。さらに、こんな状況に陥ったら精神崩壊とか罪の意識に苛まれるとかしそうなものなのだが、主人公は人を殺しても全く悪びれることがない。その軽さが妙にリアルに感じられて、怖い。
絵柄といいノリといい雰囲気といいオチの台詞といい、『かげふみさん』を思わせる作品。
『kurutare』
元軍人のエリーは、「早撃ち大会」に参加して日々金を稼いでいた。ある日、大会にバレットという少女が参加する。彼女の銃に込められていたのは決して的を外さない魔弾だった、という話。
エリーがエロい、その一点に尽きる。尽きるなよ自分。
『イレイサー・ヘッド』
記憶を消せる腕を持つジョナサン。あるストーカーの女性から、好きな彼の記憶を消して欲しいと頼まれるが……という話。
テーマは愛と憎だった。こういうどろどろしたのも嫌いじゃないんだけど、なぜか感情移入できない。独特の軽さがマイナスに作用しちゃってるのかも。あと、「記憶を消すことができる腕」ってどこかで聞いたような。
ジョナサンの腕のデザインが好き。一度でいいからバリバリの機械モノを描いて欲しい。あとがきの、今のタッチで描かれているジョナサンがかっこよすぎる。
『運命の人』
告白されたけど、私は運命の人としか付き合わないの、という女の子の話。恋愛もの一直線。
ハゾメさんが可愛い。テンポくんの台詞がよすぎる。あと、滑り台のシーンのカメラアングルが好き。次のページで突然抱きついているのと合わせて、すごい効果的な表現だと思った。
『十代の潜水生活』
足のない女の子メロンと、泥棒の男の子チョコの物語。
なんというか、思わせぶりな台詞に勝手に騙されたけど、騙された後で見た光景の美しさ、すがすがしさは格別だった。額に傷を持つ男が何を意味するのかイマイチよく分からなかった。あとメロンとチョコの心情の描写がちょっと急ぎすぎじゃないかな、と思ったりもした。けれど、とにかく、ノートの話とクライマックスのシーンが素晴らしすぎる。
あとがきが食べ物の話ばかりだった(笑)。やっぱり食べ物好きなんですね……。
かげふみさん
![]() | ![]() | ![]() | かげふみさん1〜3 (バーズコミックス) 小路 啓之 |
「かげふみ」とは、相手の影が踏めるほど近くにいても気配すら感じさせない、尾行のプロのこと。かげふみである主人公・めぐみのメグは、標的に張り付いて殺し屋に情報を渡す仕事をしている。ただ、彼女は気になることがあると納得するまで鼻血が止まらない体質で、仕事中も「標的が悪に見えない」「どうして殺されなければならないのか?」と鼻血を流し続ける。鼻血を止めるため(?)、そして誰かの命を救うため、見えない彼女は今日も奔走する。
……とまあ、慣れない紹介文なんぞ書いてみたわけだけど……なんかもう、ごめんなさい、いろいろ。
これはかなりオススメなマンガ。とにかく面白い。
『イハーブの生活』から5年ほど経ち、驚くほど絵柄が変わった。細かった線はやや太く、全体的に丸くなった。女の子はほっぺたがぷにぷにし始め、より可愛らしくなっている(当社比3倍くらい萌え、とかいったい何を書いてるんだ僕は)。
鼻血が止まらないかげふみさんことめぐみのメグもさることながら、目立ちたくなくても目立ってしまう人間心理学研究員・がじゅ丸、第三のかげふみで刃物が好きなキリコ、綺麗でエロい華の子のルソルソ、狙撃手の一発屋カン太、バクハツの吾朗ちゃん、首切り三瓶などなど、相変わらず癖のある、個性の強すぎる登場人物ばかり。気の利いた台詞、ネタの応酬はさらに磨きがかかっている気がする。何度読んでもにやにやしてしまう。
基本殺し屋の話なので、ばたばた人が死ぬ。納得しようがしまいが、わけが分かろうが分かるまいが殺される、不条理さみたいなものはある。ただ、絶望とか悲しみとかはあまり強く感じられない。物語が終始どたばた喜劇のようなテンションで展開することと、キャラの言動が面白い(特にがじゅ丸の存在が大きい)ことに起因しているのかと思う。
あえてメインテーマを挙げるとすれば、ありがちな言葉になってしまうけれど、「表裏一体である愛と憎」というところだろうか。
実は今回、2巻と3巻を先に読んでから1巻を読むという邪道なことをしてしまった。そうしたら1巻がやけにエロくてびっくりした。3話と4話が特に下ネタオンパレードで笑える。(1巻だけ買ってみたそこのキミ、どうかひかずに続きをぜひ。幻冬社のページで第1話を試し読みしたアナタ、まだ序の口です。)1巻の最後に収録されている短編『甘い運命』の登場人物が、ちゃっかり後の巻で出ていたのも楽しかった。
『イハーブ』では各話のタイトルが食べ物だったけど、『かげふみさん』では動物で、表紙がその動物を思わせるデザインになっている。ただ、3巻だけは違っていて、表紙ではそれまでに死んだキャラたちが頭に輪っかつけて出ている。そういえば『イハーブ』でもそういう表紙あったな。表紙のセンスの良さも好きだ。
それにしてもあのラストは……最初、気がつかずにハッピーエンドだと思ってしまった。大ボケだ。
マンガを少し
最近読んだマンガの感想メモ。
『イハーブ』を探すために普段行かないBOに行ったらあったので即買い。やっと読めた、という感じ。相変わらずいい感じのヒューマンドラマでした。少年に気づいた男の話と、彗星を見に集まる四人の話が良かった。OLの話だけは、柳沢教授以前の作風を連想させる感じで微妙だった。
つーか、もう7巻まで出てるんですね5巻の感想とか今更ですねいい加減新品で買おうかなあ。
久々にきた、妖怪ハンター関連含む、怖い諸星さん。諸星さんは怖いほうが好き。『描き損じのある妖怪絵巻』のラスト、闇の中に浮かぶ二つの目が頭から消えてくれない。『闇の鶯』は1989年に雑誌に掲載したものとあって、当時の最先端電化製品に時代を感じた。あと原発を話に組み込んでいるあたりも。『涸れ川』は『遠い国から』シリーズの1つ。どこまでも続く乾いた荒野、夢の中のようなシュールな光景、アウトサイダーである主人公。素晴らしかった。
実は我が家は代々続く妖怪一族の本家で、じいちゃんは妖怪たちをまとめる「ぬらりひょん」だった!という、妖怪もの。主人公リクオが妖怪と人間のクォーターで、「一日の四分の一しか妖怪になれない」という設定がなかなか面白い。「ヒロインが変身後主人公(=妖怪リクオ)に惚れる」とか、変身もののお約束だなあ。あと、妖怪と人間の三角関係とかね。
とにかくキャラが魅力的。妖怪たちの、かっこいいこと、可愛いこと、面白いこと。雪女も河童も青も黒も好きだけど、首なしが一番好き。あれで女の子だったら文句なしなのに。首ぽろりに萌えます。
![]() | 不思議な少年 (5) (モーニングKC (1539)) (2006/07/21) 山下 和美 商品詳細を見る |
『イハーブ』を探すために普段行かないBOに行ったらあったので即買い。やっと読めた、という感じ。相変わらずいい感じのヒューマンドラマでした。少年に気づいた男の話と、彗星を見に集まる四人の話が良かった。OLの話だけは、柳沢教授以前の作風を連想させる感じで微妙だった。
つーか、もう7巻まで出てるんですね5巻の感想とか今更ですねいい加減新品で買おうかなあ。
![]() | 闇の鶯 (KCデラックス) (2009/04/23) 諸星 大二郎 商品詳細を見る |
久々にきた、妖怪ハンター関連含む、怖い諸星さん。諸星さんは怖いほうが好き。『描き損じのある妖怪絵巻』のラスト、闇の中に浮かぶ二つの目が頭から消えてくれない。『闇の鶯』は1989年に雑誌に掲載したものとあって、当時の最先端電化製品に時代を感じた。あと原発を話に組み込んでいるあたりも。『涸れ川』は『遠い国から』シリーズの1つ。どこまでも続く乾いた荒野、夢の中のようなシュールな光景、アウトサイダーである主人公。素晴らしかった。
![]() | ぬらりひょんの孫 1 (ジャンプコミックス) (2008/08/04) 椎橋 寛 商品詳細を見る |
実は我が家は代々続く妖怪一族の本家で、じいちゃんは妖怪たちをまとめる「ぬらりひょん」だった!という、妖怪もの。主人公リクオが妖怪と人間のクォーターで、「一日の四分の一しか妖怪になれない」という設定がなかなか面白い。「ヒロインが変身後主人公(=妖怪リクオ)に惚れる」とか、変身もののお約束だなあ。あと、妖怪と人間の三角関係とかね。
とにかくキャラが魅力的。妖怪たちの、かっこいいこと、可愛いこと、面白いこと。雪女も河童も青も黒も好きだけど、首なしが一番好き。あれで女の子だったら文句なしなのに。首ぽろりに萌えます。
イハーブの生活
![]() | ![]() | ![]() | イハーブの生活1〜3 (アフタヌーンKC) 小路 啓之 |
むかしむかしマリーとエリーというお互い愛し合う女性がいました
二人は毎夜愛し合うのですが子供が一向にできません
それもそのハズ 二人には肝心の種がありません
そこでエリーとマリーは貯金をおろして種を買いにいきました
二人はジャンケンで卵係と子宮係を決め
めでたく子供は生まれましたが二人はすこしがっかりしました
だって女の子が欲しかったんだもの
でも生まれてきたものはしかたありません
とりあえずイハーブと名付けました
「それが僕なんですよ刑事さん」(冒頭より)
主人公イハーブほか、何人もの個性の強い登場人物が立ち回る、ややドタバタなハードボイルド。男と女から始まり、親と子、生と死、善と悪、聖と俗、条理と不条理に至るまで、多くのテーマが全3巻にぎゅっと詰め込まれている。なんというか、盛りだくさんだ。
読んでいて気持ちいいのは、テンポのいい展開と気の利いた台詞回し、また線の細いファンシーな絵柄やところどころ差し込まれる幻想的な映像が、いい意味で「軽さ」を生んでいるためだろう。その軽さが一つの武器になっている。なんでもなさそうに振り回しながら、持った手が潰されるほどの重いテーマを読者に渡してくる。そのギャップはときに暴力的にすら感じられるため、そういう面で好きになれない人もいるかもしれない。(顕著に感じたのは2巻の後半、突入シーンからの流れで、個人的にこの物語のメインだと思っている。)
あと、大きなポイントになっているのは感情だろう。主人公のイハーブは、達観しているような、どこか冷めた目線でもって物事を眺め、受け入れている。その姿勢は、人間の醜い部分を描き出す物語全体の姿勢とリンクしているように思える。そういった中に、片腕の泥棒ガンズや母親のマリー、警官のトニー谷田のような、比較的真っ当な感情の持ち主が入り込むと、彼らの台詞や行動は浮き彫りになったかのように際立ち、大きく響くように感じられるのだ。
各和のタイトルが食べ物になっている、というのも面白い。タイトルの食べ物が必ず作中に出てくるのだ。一番好きなのは3巻の「ウーロン」かな。
マリーさんが面白すぎる。ちょい役だけど、ワルさんことワルワルダムがデザイン的にもキャラ的にも好き。好きじゃないけど印象に残っているのはヤハベ。かなりおいしい位置にいると思う。
鴨川ホルモー
![]() | 鴨川ホルモー (角川文庫) (2009/02/25) 万城目 学 商品詳細を見る |
本屋に『秋季限定栗きんとん事件』の下巻を買いに行ったら文庫版が置いてあった。どんな話かは全く知らなかったが、よく通う本読みサイトの管理人さんが「面白い」と書いていたこともあり、迷わず購入した。
読んでみたら、ばかばかしくて、痛々しくて、薄ら寒くて、むちゃくちゃ楽しかった。途中から続きが気になって止められなくなった。
このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗なひと(鼻)でした。
このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、戦に、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。
京都の街に巻き起こる、疾風怒濤の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作,碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり!!(裏表紙の紹介文より)
これは良い紹介文。
青春小説である。途中、そこだけ見るとあきらかに変態的といえる場面を挟むなど、森見登美彦さんの『太陽の塔』と同じくらい癖があって「うわ、この人ぜったい変だ」と思うのに、最終的に青春小説として落ち着くところは見事としか言いようがない。特に終盤の雨の中で叫ぶシーンは、お約束かもしれないが、名場面であった。
また、自虐のための痛々しい比喩表現があまりに巧みで思わずにやにやしてしまった。「後悔の順列組み合わせを始める」とか。そのあたりの文章がやけにノッててレベル高い気がするのは気のせいだろうか。
さて、この作品において最も重要なポイントは、なんといっても「ホルモー」という言葉にある。おそらく誰もが、「“ホルモー”って何よ」と思うに違いない。もしかしたら、その答えを求め、検索サイトで「ホルモーとは」などとキーワードを入力してここを訪れる方もいらっしゃるかもしれない。
しかし、残念ながらここではその疑問に答えることはできない。致命的なネタバレになりかねないし、うまく説明できる気がしないからだ。あと、少し怖い、というのもある。読み終わった人は多分、誰かに「ホルモー」とは何であるかを説明しようと思わないんじゃないだろうか。
それでもあえて「“ホルモー”とは何か」の問いに答えるならば、「読めば分かる」の一言に尽きる。気になる人は、ぜひ読んで頂きたい。
未知のものを作り出し、新しい名前をつけ、自分以外の者には語らせない。作者の戦略には舌を巻くばかりである。
ここまで書いて、本に挟まれていた映画化のチラシのことを思い出した。そこには、「ホルモー」についてたった二行で説明されたキャッチコピーが入っていた。それを目にしたときはひどく拍子抜けした。なんというか、とても残念な感じだ。
秋期限定栗きんとん事件
![]() | 秋期限定栗きんとん事件 (2009/2/27・2009/03/05) 米澤 穂信 |
ある日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」見たいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。――それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい……。(裏表紙の紹介文より)
なんだか種明かしまで、延々と不穏な空気が流れていた気がする。雨とか、曇りのイメージがずっと残っている。
小鳩くんは相変わらず日常の謎解きに夢中だし、小山内さんも相変わらず怖くて可愛かった。
帯にも書かれているが、小山内さんの「わたし、知りたかったの。恋とはどんなものかしらって」という台詞、あるいは小鳩くんの「人間失格っぽい」と思われる態度、そういうものの根っこにある冷めた感覚に共感する。好きな人について考えているとき、その「好き」とかいう感情の後ろに控えている、色のない平坦な部分。前面に出てくる感情が比較的少なかったり、意識されにくかったりすると、その後ろにあるものはより意識されやすくなる。相手の感情に対して、平坦な部分でもって相対しようとすると、どうしても温度差を隠すことができない。自分の感情に対して、平坦な部分でもって語ろうとすれば、それはどうしても遠回りになる。
「『つきあってくれ』の一言で済ませたことを言うために、わたしたちはどれだけ言葉を積み重ねなきゃいけないの? やっぱりわたしたち、所詮、考えることができるだけなのかな?」
「つきあってくれ」の一言で済ますことができる人は、きっと彼らを不器用だと言うのだろう。確かに不器用かもしれないが、僕には彼らの会話から生まれる、くどくなくてしつこくなくて、口の中ですっと溶けて消えるかすかな甘味がとても美味に感じられる。そして、上の台詞に対する小鳩くんの思いに頬が緩んでしまう。
もしも五年ほど前にこの本を読んでいたら、今よりももっと強い共感を覚え、色々と感化されていただろう。今の僕は、言うならばコンペイトウのような感情を舌先で転がしているような状態だ。自覚的である点から自作自演の可能性も否めないが、自信のスタンスを認めることができたからか、まあ比較的安定している。
あとは読みながら、自分は「マロングラッセ」「栗きんとん」のどっちなんだろう、なんてことをぼんやり考えたりもした。……これ以上書くと鬱陶しいことこの上ないだろうから、もうやめよう。
それにしても、もう彼らも三年生になってしまった。ちょっと驚いた。高校生活はあと半年くらいしか残っていないのに、その期間で冬季限定を書くのだろうか? 受験と卒業があるのに? それとも卒業後も書くのかな? とにかく、シリーズラスト、どういう場所に着地するのかが楽しみ。
今までの小市民シリーズの感想:
春季限定いちごタルト事件 夏季限定トロピカルパフェ事件
I LOVE YOU
![]() | I LOVE YOU (祥伝社文庫) (2007/09/01) 伊坂 幸太郎 石田 衣良 ほか 商品詳細を見る |
アンソロジーに手を出したのは初めて。しかも恋愛がテーマだなんて、伊坂さんと本多さんが書いていなければ、目に留めることもなかっただろう。
収録作品は下記。
1. 伊坂 幸太郎 『透明ポーラーベア』
2. 石田 衣良 『魔法のボタン』
3. 市川 拓司 『卒業写真』
4. 中田 永一 『百瀬、こっちを向いて』
5. 中村 航 『突き抜けろ』
6. 本多 孝好 『Sidewalk Talk』
お気に入りは1, 4, 5の三つ。
伊坂さんのは相変わらず、四方八方に散らばったはずの伏線がきれいに一つの円を描いて終わるような、すがすがしさを感じる話だった。
中田さんの話は、冒頭の地の文や登場人物の台詞に違和感を覚えながらも、ちくちく刺さるような展開にのめりこんだ。切り取られたラストシーンの美しさ、ふわっとした柔らかな感触が印象に残っている。それにしても『舞姫』かよ、と思うのは僕だけじゃないはず。
中村さんの話を読んだのはこれが初めてだったけど、とても面白かった。大学生たちのバカだけど一生懸命なノリとか、登場人物にまつわるエピソードとか、読みながら何度も笑った。文章のテンポとか言葉の選び方とかが小気味良い。
ところで、中田さんのほかの作品が読みたくてネットで検索かけたら、中田永一さんは乙一さんの別名義、という内容が表示されてかなりびっくりした。言われてみればそういう「におい」がするような気がするけど、読んでるときは全く気づかなかった。Z-1とA-1、ってことなのか。実際のところどうなのか、はっきりしたことは分かってないらしいけど、別人だったら中田さんにはかなり失礼な話だなあ……。
ミミズクと夜の王
![]() | ミミズクと夜の王 (電撃文庫 こ 10-1) (2007/02) 紅玉 いづき 商品詳細を見る |
泣きましたさ。
魔物のはびこる夜の森に、一人の少女が訪れる。
額には「332」の焼き印、両手両足には外されることのない鎖。自らをミミズクと名乗る少女は、美しき魔物の王にその身を差し出す。
願いはたった、一つだけ。
「あたしのこと、食べてくれませんかぁ」
死にたがりやのミミズクと、人間嫌いの夜の王。全ての始まりは、美しい月夜だった。
――それは、絶望の果てからはじまる小さな少女の崩壊と再生の物語。(そでの紹介文より)
冒頭を読んだ時点で、僕好みだ、これは当たりだと思った。絶望し、半ば壊れてしまった傷だらけの少女の美しさと、闇夜に包まれた魔物のすむ森の美しさが相まって、儚く幻想的な雰囲気を作り上げている。さらに、ミミズクの「食べてくれませんか」という台詞から想像される「魔物が少女を喰らう」という妖しげなイメージが加わる。その中で、今まで得られる事のなかった優しさや、誰かに許されること、そういったものに触れたミミズクの感情が星のように輝く。
実は、序盤のミミズクのゆるくてほわほわとした台詞は、僕の中でかなりぎりぎりのラインで、読み始めは抵抗があった。だが読んでいるうちに、それが全体の美しい雰囲気を生み出す重要な要素となっていることに気づき、何よりその美しさに思い切り引き込まれたため、気にならなくなった。
物語の流れは王道なのかな、という感じ。それでも、ハッピーエンドに向けて収束し始め、くるぞくるぞと分かっていても泣いてしまうこの不思議。くそう。
最後に、はっとさせられた一言を引用。
どうしてだろう、こんなにも、言葉は教えてもらったのに。
言葉は、覚えれば覚えるほど、足りないような気がするのだった。
ウルトラバロック・デプログラマー2
![]() | ウルトラバロック・デプログラマー 2 (2008/08/25) いとう せいこう浅田 寅ヲ 商品詳細を見る |
むちゃくちゃ好き。
精神科医志望の少年・ソラチャイの手を借りて病院から抜け出した解体屋(デプログラマー)は謎の男たちに命を狙われる。彼らは洗脳のプロである洗濯屋(ウォッシャー)の集団・サイキックワークであった。
なぜ狙われるのか?
そして出会った謎の美少年・ノビル。この少年と解体屋との関係とは?
幾つかの謎を絡ませながら、解体屋は自らの記憶を取り戻せるのか?(裏表紙の紹介文より)
それにしても長い、そしてどこか日本語が不安な紹介文だ……。(人のことは言えないけど。)
ちなみに1の感想はこちら
2巻の感想を書こうとすると確実にネタばれてしまうのが悩みどころ。というわけで久々に隠してみましょう。あまり意味はないけども。
[ウルトラバロック・デプログラマー2]の続きを読む
屍鬼1・2
| 屍鬼 1 (2008/07/04) 藤崎 竜 小野 不由美 商品詳細を見る | ![]() | ![]() | 屍鬼 2 (2008/07/04) 藤崎 竜 小野 不由美 商品詳細を見る |
少し遅くなりましたが、感想など。待っていました藤崎さん。この絵のクオリティの高さ。センスのよさ。好きだわあ。
199X年の夏、山に囲まれた人口わずか1300人の外場村(そとばむら)で、原因不明の3名の死体が発見された。同時期、古い洋館に越してきた桐敷(きりしき)一家と接触した女子高生・清水恵(しみずめぐみ)が行方不明に。相次ぐ怪事件……凄烈なる夏が始まる!(1巻裏表紙の紹介文より)
原作は『十二国記』で有名な小野 不由美さん。実は一冊も読んだことないですすみません。読むならこの『屍鬼』がいいなとは思っていたんだけど。ってか、今調べて知ったんだけどミステリの綾辻さんの奥さんなのね。そして伝説の(?)京都大学推理小説研究会出身という……うわお。
物語としては今のところまだなんともいえない。ああ結構、順当なホラーなのかな、という印象。原作も読んでないので多くは語れませぬ。
そもそもこのマンガを買ったのは、ほかならぬ藤崎さんが描いていたから。全コミックを所有しているわけではないけど、『サイコプラス』がジャンプに載ってた頃からファンだ。絵のセンスのよさ(特にカラー絵のセンスが最高)、短編の描き込みの凄まじさ、ギャグも交えてゆるく、ときどきシュール、それでも芯の通った物語。そういうところが好き。
今回の『屍鬼』はというと、全体的に絵が濃いい。常にびっしりな感じ。あとは映像表現が恐怖を煽る。一番よかったのが、2巻の「誰かが階段を上ってくる……」というシーン。部屋の壁とかがパースになって透けて、階段を上ってくる人影が描いてあるんだけど、「見えないものを想像する」怖さが巧みに表現されている。あのページは鳥肌ものだった。
個人的には、藤崎さんの描くコロコロしたメカとかが好きなので(『ワークワーク』は思い切りツボだった)、そういうのが出てこないだろう点が残念。ただ、描いている方は色々遊んでいるようで、キャラの髪が明らかにあり得ない形をしていたりとか、そもそもキャラ自体が異彩を放ちすぎていたりとか、そういうところは楽しい。
ところで今回は1・2巻同時発売ということで、月刊にしてはかなりのハードスケジュールだったようだ。とはいえ、完成したものを見る限り、藤崎さんはやっぱり週刊より月刊向きだと思うのは僕だけだろうか。
ひかりのまち
![]() | ひかりのまち (2005/06/17) 浅野 いにお 商品詳細を見る |
プロローグ:BIRTHDAY SONG
第1話:キラキラ星はどこへゆく
第2話:バスストップ(Part 1〜3)
第3話:hPa(ヘクトパスカル)
第4話:HOME(Part 1・2)
エピローグ:REBIRTHDAY SONG
とある郊外の丘陵を開発してできた、通称「ひかりのまち」。そこを歩くのは、デビューしたての売れない漫画家、不登校の小学生、電波系女子高生、金に執着するチンピラと元医大生、死について語る幼稚園児。それぞれの登場人物たちが、日当たりの良いマンション群を舞台に、少し陰のある物語を綴る。
……もう、いいじゃないですか。あらすじ紹介とか、何も言わなくても。
第一印象は「しまった、ハズレか?」だった。というのも、プロローグから第1話、あまりに歯ごたえがない。どうしようかと思った。それでも第2話まで読んで、ようやく安心した。これだ。描かれる明るい街の裏の暗がり、登場人物のそれぞれの歪みとその背景。
というわけで第2話『バスストップ』が好き。失った人たちの危うさというか、不器用さというか。それにしても、タスク少年とハル子さんって……もしかして、『フリクリ』ですか。
あとは『HOME』がいい。『バスストップ』で登場する“三つ目”の芳一が、実は人情味溢れる奴だったというのは、読んでいて「ずるい!」と思った。
エピローグのバスの表現なんかはかなりシュールで、『おやすみプンプン』の手法はここらへんから出てきてるのかな、なんて思った。バスの乗客の姿は、手塚治虫『火の鳥』のロボットと恋に落ちる青年の話を思い出させられた。
ソラニン
![]() | ![]() | ソラニン 2005/12/05, 2006/05/02 浅野 いにお |
社会人二年目の種田と芽衣子さんは一緒に暮らしている。芽衣子さんはOL。種田はバイトしながら大学時代からのバンドで曲を書いている。担当はボーカルとギター。ベースの加藤は大学六年生。ドラムのビリーこと山田は薬屋の実家で働いている。加藤の彼女のアイちゃんはアパレルのショップ店員で、芽衣子さんと仲がいい。五人は大学時代の軽音サークルで知り合った友人同士。物語は、それまで「まぁいいや」で仕事を続けていた芽衣子さんが、会社を辞めるところから始まる。
表紙裏の文章があまりに漠然としていたので、苦手なんだけど自分で紹介文書きました。いつも思うけど、やっぱり下手です。
行き場のない未消化の衝動。もやもやとした感覚。生ぬるい平和。変わり映えしない日々。不安。自分にとって何が大切で、でも現実と折り合いをつけなきゃならなくて。
なんというか、自分が似たような状況にあるため、三割増で感情移入をしてしまった。おかげさまで2巻が衝撃的で、読んでて「それはないだろ」って思ってしまった。今は落ち着いている。相変わらず、色々と考えさせられていはいるのだが。
浅野いにおさんにしてはシリアスすぎずダークでもなく、ギャグがけっこう多めでポップな印象がある。書店でよく紹介されているのを見るけれど、確かに売れ線だよなあとか思ってしまう。もちろんそれが悪いわけではないし、僕はいいマンガだと思っているんだけれど、『虹ヶ原ホログラフ』とかのダーク路線も好きなので。『ソラニン』は、浅野いにおさんの作品の中では、どんな人にでも安心して薦められるマンガだと思う。
ライブシーンの迫力というか、気迫が良かった。突き抜けるような感覚を味わえた。ギターの音が聞こえた。僕はあまり音楽マンガ(ってジャンルあるのか?)を読まないから、そういう感覚が新鮮で楽しい。
クドリャフカの順番
![]() | クドリャフカの順番 (2008/05/24) 米澤 穂信 商品詳細を見る |
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎(おれきほうたろう)が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう! 目指すは文集の完売だ!! 盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに……。(裏表紙の紹介文より)
他の古典部シリーズの感想:『氷菓』 『愚者のエンドロール』
楽しくて一気に読んだ。神山高校文化祭の話。
古典部シリーズ前二作との一番の違いは、なんといっても四人での視点移動だろう。古典部の四人がスペード、クラブ、ハート、ダイヤで表され、異なる視点で文化祭の様子が描き出されていく。また、今まで触れることができなかったホータロー以外の登場人物たちの内面にも触れることができる。地の文もそれぞれ特徴的で、「データベース」こと福部里志は思考まで芝居じみていて楽しく、「わたし、気になります」の千反田さんは丁寧で天然、「イバラのトゲ」伊原さんは落ち着いた印象がある。他の登場人物の視点で読んだ後で「省エネ」ホータローの地の文を読むと、古めかしいというか、聞きなれない言葉が多いことに気づく。(思わず「雉を撃つ」の意味を調べてしまった。)
登場人物といえば、このシリーズにおけるホータローの姉貴の存在感は一番だと思う。今回、ついに登場かと思いきや、やはりスポットライトの下には出てこなかった。相変わらず物語の外にいながらにして、美味しいところを持っていく。
あとは、『氷菓』のあとがきにあったなぞなぞの答えが作中に入っていたり、「今からあの本のネタバレしますよ」と念を押して書いてあったりと、読者に対するサービスと細かい心配りを感じた一冊でもあった。なお、『愚者のエンドロール』の「味でしょう」の答えもきちんと書かれている。
米澤さんの作品を読むと毎回感じる、例の行き場のない感情というか、どうしようもない感覚みたいなものは、今回もしっかりと軸になっている。ただ、前二作に比べると少し控え目だったように思う。祭の空気に飲まれているからだろうか、楽しい印象の方が強かった。読み終わった今は、祭のあとの寂しさに似た感覚を味わっている。
太陽の塔
![]() | 太陽の塔 (新潮文庫) (2006/05) 森見 登美彦 商品詳細を見る |
私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!
クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。(裏表紙の紹介文より)
面白かった。序盤は、「水尾さん研究」と称してストーカー行為に走りながら、偏った理論でそれを正当化する主人公に、粘っこい気持ち悪さを覚えたが、途中で爆笑してから面白さの方が前に出始め、一気に読んでしまった。
物語は主人公によって語られる形式で書かれている。その文体はどこか堅苦しくも感じられる文語調で、中には巧みな比喩がぎっしり詰め込まれている。この独特の文体が、物語をより面白く、魅力的に見せている。
なんといっても、主人公を含む冴えない男たちによる馬鹿馬鹿しいエピソードが面白い。主人公の周りには、かつて同じクラブに所属していた三人の仲間がいて、皆、似たように濃く、似たように女性に縁がない。その一人一人にまつわる過去の話、彼らが集まって繰り広げるストイックで暑苦しい論争や、恋愛至上主義社会への虚しい抵抗が、とにかく笑える。
笑えるエピソードの合間に、どこか幻想的な風景が覗く。主人公がときに歩き、ときに走る京都の風景。(特に叡山電車を追うシーンが好きだ。)太陽の塔と水尾さんに関する回想シーン、「水尾さんの夢」。深夜の京都の町や、暗く閉じこもった男たちの世界から一転して、明るい風景が目の前に広がる。思わず引き込まれ、その美しさに唸ってしまった。
波が押し寄せるようなラストには、素晴らしい、の一言。
ちなみに、むせるほど爆笑したのは「キューブ」の箇所である。二十三時に大声で笑ってしまい、近所迷惑も甚だしかっただろう。
犬はどこだ
![]() | 犬はどこだ (2008/02) 米澤 穂信 商品詳細を見る |
開業にあたり調査事務所〈紺屋S&R〉が想定した業務内容は、ただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。――それなのに舞い込んだ依頼は、失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、このふたつはなぜか微妙にクロスして……いったいこの事件の全体像とは? 犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵、最初の事件。新世代ミステリの旗手が新境地に挑み喝采を浴びた私立探偵小説の傑作。(裏表紙の紹介文より)
本当に怖いのはやはり人間である。
『古典部』シリーズや『小市民』シリーズとは違った味がある。おそらく、どちらかというと日常的な謎に焦点を当てたそれらのシリーズとは異なり、やや事件性のある、非日常的な謎を扱っているためであろう。
登場人物が魅力的である。探偵になるつもりはないのに探偵になってしまった主人公の紺屋、探偵になりたいと思っているのに結局探偵らしくない仕事をする羽目になった助手のハンペー。この二人の語りによって物語りが進行していく。紺屋から見たハンペーはいかにも軽い感じなのだが、ハンペーの語る部分で意外にも地の文がしっかりしているのに驚いた。見た目と中身のギャップのようなものが感じられて面白い。
また、『愚者のエンドロール』でもあったチャットで会話する場面が入っている。紺屋とGENというHNの登場人物との会話なのだが、これが読んでいて楽しい。ネット上での距離感みたいなものを表しつつ、GENの存在感が色あせることなく、むしろ際立っているところがすごい。
相変わらず、米澤さんの本を読むと静かに感情が沸いてくる。いつかの苦い思い出、もどかしいけれどもどうしようもない状況。この話においては人間の怖さみたいなものがじわじわと感じられた。(『さよなら妖精』で墓に紅白の花が添えられているエピソードがあるが、あの気持ち悪さと似ているかもしれない。)周りにいてもおかしくない登場人物たちにより、現実でも十分起こりうる事態が描き出されており、思わず引き込まれた。途中であまりにハラハラして声を上げたくらい。(本やマンガを読んでいるとき、また映画を観ているとき、うるさいとよく言われる。)
ところで、近々『クドリャフカの順番』が文庫化されるようだ。今から楽しみにしている。
百年の孤独
![]() | 百年の孤独 (1999/08) G. ガルシア=マルケス 商品詳細を見る |
愛の欠如のなかに生きる孤独な人間の生と死、
相次ぐ奇想天外な事件、奇態な人々の神話的物語世界――
マコンド村の創設から百年、
はじめて愛によって生を授かったものが出現したとき、
メルキアデスの羊皮紙の謎が解読され、
ブエンディア一族の波乱に満ちた歴史が終る。
世界的ベストセラーとなった傑作長編の改訳、新装版。(帯より)
ノーベル文学賞受賞作家、ガルシア=マルケスの代表作。
乾期と雨期、気温は高く、むせるような匂いがたちこめる。人は生まれ死に行く。繁栄に、戦争に、娯楽に、規律に、美に、宗教に、知識に、それぞれの一生を捧げながら。孤独のまま誰かを求め、それゆえに憎しみ、妬み、さらに孤独を深めながら。
とにかく人が多い。しかも何人も同じ名前をつけるものだから、誰が誰だったかわからなくなる。さらには死んだ人間まで霊として出てくる始末。また逆に一族以外の人の存在感が希薄になってしまい、久しぶりに出てくると「あれ、この人誰だっけ」ということもしばしば。なんだか読んでいて混乱した。
クライマックスまでは展開に大きな波があるわけでもなく、一定の調子で出来事が語られていく。最初のうちはその単調さに少し苦しんだ。ただ、戦争や政治であったり、鉄道や電話であったり、飛行機だったり、そういった現実的なものが村に持ち込まれる反面、一族の人間に起こる出来事はどれも非現実的だ。奇妙で、どこか魔法のような。そのバランスが不思議な雰囲気を作り出していて、いつの間にかのめりこんでいた。
クライマックスが凄い。最後まで不思議な雰囲気をかもし出しつつ、全ての暗示が一点に収束する。読み終わった後でもしばらく現実に戻って来れない本が好きだ。
Nightmares & Fairy Tales
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可愛らしいもの好きここに爆発。
おとぎ話のように愛らしく、悪夢のように恐ろしい物語
ある日、あるところで、不幸な目に遭っている少女たち……。彼女たちのそばには、可愛くてちょっと怖いアナベルという人形がいる。本当に邪悪なものから、少女たちを守るため……。
今日もアナベルはどこかで、死も闇も超えた、不思議な魔法をわれわれにほどこすため、その大きな瞳で、じっと世界を見つめている。(帯より)
なお、帯には冬目景さんとウエダハジメさんのコメントもあり。なんという素敵な組み合わせ。
01. モーガンとドミニク
02. 呪われた修道院
03. 白雪姫
04. おひっこし
05. シンデレラ
06. 幽霊と人形屋
07. 赤頭巾
08. グウェンと魔法の木
09. 美女と野獣
10. 取り憑かれた女
漫画を描いているFSc(フー・スウィ・チン)さんはシンガポール出身。原作はアメリカ在住のセレナ・ヴァレンチノさん。もともとはアメリカの出版社で出た本。というわけで日本の漫画と違い、文字は横書きで左綴じ。コマを読む順も右から左。最初は慣れなかったけど、読み終わる頃には気にならなくなった。
とにかく絵が可愛い。人形のアナベルしかり、ころころした小物の愛らしいことと言ったら。特に表紙の女の子、グウェンが出てくる話(4, 8)が最高。この雰囲気で一冊描いていただけたら泣いて喜ぶ。ついで、3の森の中の描写と7の狼がいい。
ただ、そんな可愛らしい絵とは裏腹に内容は凄惨なものが多い。ずいぶん昔に読んだ『本当は残酷なグリム童話』と似たような印象がある(エロはないけど)。スプラッタが苦手な人にはオススメしない。あと個人的には、女性特有のどろどろした感じというか、嫉妬とか憎悪とか、復讐とか被害妄想とか、そういうものが主に出てくるのが辛かった。加えて同性愛(女性同士ね)の描写が多いのにも首をひねってしまう。というわけで僕の中では、物語を読むというよりFScさんの絵を楽しむ本という位置づけ。
今は『muZz』が読みたい。サイトでも読めるけど英語だしなあ。
FScさんのサイト:a wasteland of pathetic pessimism
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