ギュウギュウ詰めの銀週間

1/ 散髪と珈琲、懐かしい呼び名
 目がさめたらひどい頭痛。ペリエで割った酒を飲みすぎて二日酔いになったんだろうか。ガンガン痛む頭を押さえながら髪を切りに行く。また予約の時間に遅刻してしまい、自己嫌悪に陥る。シャンプーしてもらったら、頭痛がだいぶ楽になった。
 ふと思い立って、高校時代の先輩がやっているカフェへ。正確な場所を覚えてなくて、そんなに入り組んでる場所でもないのに、路地をぐるぐる歩く。着いたら店の前に黒塗りの車がとまっていてびびった。「あれ、文鳥さんじゃないですか」と言われて、そういえばそんなあだ名で呼ばれていたなあ、と懐かしかった。小一時間ほど、コーヒーを頂いたり、近況を話したり。美味しいコーヒーとゆったりとした雰囲気で、なんだかとてもホッとした。
 帰り道でまた頭痛。どうやら偏頭痛っぽい。帰宅してすぐにダウン。蒸しタオルを顔に当てたり、首に当てたりするもあまり効果がない。どうしたものかと思っていたのだが、夕飯を食べたらけろりと治った。飯は偉大だ。というか飯食えよ自分。最近土日は二食くらいしか食べなくて、その日も菓子を食べただけだった。
 マロンシュークリームを食べる。なんかイマイチで、隣で食べてたエクレアの方が美味しそうだった。

2/ 初めて訪れる土地、久々運転、過去と現在
 夕方に電車を乗り継いでH市へ。青春18切符で東京から特急使わずに帰ってきたときのことを思い出して、少しワクワクした。身一つで見知らぬ土地を踏むことの頼りなさ。非日常的な状況におかれ精神的にも軽くトリップする。
 友人の車で民宿に行き、三人で麻雀。相変わらず役が覚えられなくて、捨て牌も読めなくて、当然のごとくボロ負け。
 翌朝、五、六年振りにマニュアルを運転して死を覚悟する。チェンジってこんなに難しかったか。信号での停止・発進ってこんなに不安なものだったか。エンスト四回ぐらい。まあ五、六年ぶりにしてはいい線じゃないかな、と色々棚に上げて言ってみる。
 人生初のガストでモーニング。高校時代のセンターの点とかテストとか、会話が大学時代とほとんど変わってなくてびっくりする。選択肢と出会いについて独り思いを馳せ、もう過去のこと、と当たり前の結論に達する。
 遠州灘沿いの砂丘を歩く。一人ではしゃいで靴を脱いだら、足が砂まみれになった。浅瀬に立つ鳥居を見に行く。地図を見ると鳥居じゃなくてシンボルタワーとのこと。比較的新しいものらしい。途端に風景から情緒が失われた気がした。昼を食べるために一時間ほど待つ。店でうな重を食べたのは初かもしれない。むちゃくちゃ美味かった。鍾乳洞に行き、石がどろどろに溶けたような光景に見惚れて、頭をぶつけた。ホテル内の温泉に入る。のぼせそうだったので早めに出る。渋滞を避けて下道で帰る。
 後半はテンションが下がってしまって口数が減り、半分くらい寝ていた。周りに不快な思いをさせたかもしれない。すみません。

3/ 寝坊、雨男と山
 少し前に、主人公が寝坊して大遅刻をしてしまう話を書いたのだが、それと同じことをやってしまった。八時の電車の指定席で切符を買っていたのに、起きたら九時。「うあー!」と叫んで、脳味噌強制終了。再起動して真っ白な頭で支度して家を出る。二時間も待たせてしまった同行者に謝り、十時半の電車の自由席で向かった。
 M本市を歩く。入り口の狭いそば屋でとろろそばを食べる。食べ慣れているそばよりずっと細かった。つゆにとろろが溶け込んでいて、とろろを食べているのかそばを食べているのかわからなくなる。ざるを頂けばよかったな、と少し後悔した。
 M本市美術館にて、草間彌生さんの常設展示を見てきた。トレード・マークの水玉模様に引きずり込まれ、『無限の網』ではそれまでと逆の「外を描く」手法に驚き、『愛はとこしえ』の世界観に圧倒された。芸術とは他人を自分の世界に引きずり込むものなんだな、と切に感じた。ああ、近場であれば、足しげく通うのに! 時間が押してしまい、企画展示は途中から足早に通り過ぎた。走ってM本駅へ。
 M本駅から電車・バスでK高地へ向かう。途中で降りてホテルにチェックイン。馬刺し、牡丹鍋、鴨ステーキと山の幸に舌鼓を打ち、温泉にゆったりと浸かる。温泉はゆで卵のような匂いに加えて、火薬のような匂いがした。男湯は時間がよかったのかほとんど貸切状態であった。ただお湯が少し熱かったので、のぼせないようにと早めに出る。温泉は好きなんだけど、楽しめてない気がする……。
 六時に起きて朝風呂に入り、盛りだくさんな朝食を平らげ(それにしても宿の朝食はなんであんなに多いのか)、部屋で少し休んでから、バスに乗っていざK高地へ。天気は曇り時々雨。高山、金沢、京都も然り、旅行中に雨に降られることが多い。前々から疑われていたんだけど、僕は本当に雨男なのかもしれない。
 K高地に着く。開口一番、「真っ白だね」。山に雲が被っていて、途中から白く霞んでいた。まるで水墨画のような風景。勿論、アルプスの峰峯など望めるはずもなく、「晴れていればなあ」と言いながら歩いた。舗装されていない道が多いとはいえ、きちんと整備されており、予想していたよりもずっと平らで、ああここは山じゃなくて公園だな、と思った。ひんやりとした空気が清清しい。人通りの少ないコースに入って静寂に包まれるのが気持ちよかった。鴨や猿が人間慣れしていて、近寄っても全く逃げない。三時間弱くらい歩いて、昼に食堂のようなところでカツ丼を食べ、三時ごろにホテルの一階のカフェでアップルパイを食べた。朝方に店の近くで熊が出た、という話を小耳に挟み、歩いている途中で出会わなくてよかったと思った。
 帰りはバスと電車でひたすら移動。今回の旅は、とにかく移動に時間と費用がかかった気がする。

e/ 今回の教訓
 予定を詰め込みすぎない。無理はしない。もう若くないということを自覚すべき。
 砂浜で靴を脱いだら、足をきちんと洗い、靴の中の砂を落とすべきである。家に帰ってから砂を落とし忘れ、連休明けの職場に着いてすぐ、靴をひっくり返してはたく羽目になった。どこにそんなに隠れているのか、わさわさと砂がこぼれてきてちょっとびっくりした。

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